「春はあけぼの ラナンキュラス」
~100万ドルのコミュニケーション~

㈱ヒューマン・ブレーン国際事業部の新谷典子です。
弊社では企業や学校法人、自治体での研修プログラムを提供しております。
過日、三菱UFJ 銀行様にもご提供しご好評の声をいただいた「コミュニケーション研修」は弊社人気研修プログラムのひとつです。

このコラムでは、私がめぐりあった魅力的なコミュニケーションを皆さんにシェアしてゆきます。

第1回は「ロサンゼルスでの出会い」編。
私に、「チャーミングなコミュニケーション」という「花束」をプレゼントしてくれた女性をご紹介します。

~春はあけぼの ラナンキュラス~
100万ドルのコミュニケーション

「うちのママはそこにいるだけで100万ドルを生んでいるのよ」
Jさんが長いまつげで縁取られた緑色の瞳を凝らしながら告げました。

私がロサンゼルスに赴任中、懇意になったマダムのご自宅に招待されたときのこと。

マダムMは、待ち合わせの空港にベンツを運転して颯爽と登場、織りの細やかなシルバーグレーの
パンツスーツに身を包み、はずしたサングラスの下からは強い光を放つ奥行きのある目元が現れました。

Mさんは柔らかな笑顔から流れ出るような挨拶の言葉を述べると、私を慈しむような手の仕草で助手席に導きご自宅に向けて車を走らせました。

ハイウェイを走り抜けながら、Mさんは語ります。今日は、専属の運転手さんに任せずに、ご自身で愛車を駆って来られこと、娘さんからは、「ママは70歳になったのだし、人生これからだから、一層、安全運転で」と声かけがあったこと、
え、マダム、70歳・・・、なのですね。と失礼ながら、思わずマダムの艶のある髪を始め全身を
二度見した私を視線の端にとらえて、アクセルを踏みこみ微笑したMさん。
「そうですね、人生これからですよね、娘さんのおっしゃるように安全運転で、、」スピードメーターもチラ見している私をよそにMさんは楽しそうなハミングを始めました。

「あなた、勇気あるわね、20代で、大事なご主人を置いて単身赴任でロサンゼルスに仕事しに来るとはねえ・・・」に始まり、
夫婦関係づくりの心得えに的を絞った濃いご指南をいただき、講義も佳境に入ったところでMさんのご自宅に到着。
車をバックさせながらフェンダーから車庫までの距離を測るマダムの姿にも惚れ惚れとしました。

Mさんは、光あふれる応接室に私を迎え入れると、ブルーのドレスに着替えて再登場、部屋を彩る赤、白、紫、ピンクのラナンキュラスの手入れをしながら
それぞれの色の花言葉を紹介してくれました。
「あなたに似合うラナンキュラスは・・・・白ではないわね」
マダムが私を見つめて言うので
「白のラナンキュラスの花言葉は?」と問うと
「純潔」といたずらっぽく返される。

あまりに優雅なマダムの立ち振る舞いと存在の美しさ(見た目印象は50代前半ながらも70歳ならではの見事な仕上がり)に、その秘訣を尋ねると
「ストッキングは、たったまま着用しないことよ。ソファに腰掛けて
つま先を手繰り寄せるように束ねて・・・・。」ジェスチャーつきで指南。
(これは私がストッキング着用時の仁王立ちをやめたきっかけ)

そして私を一瞥すると
「私の見立てでは、、あなたは15年後には、きっと、プリティだとか、キュートだとかなんて言われなくなる。」
カワイイ礼賛主義を見抜かれてか、私が顔を曇らせるとすかさず彼女は
「・・・そのかわりに『セダクションに満ちた魔女』、といわれるようになるから大丈夫」

紅茶の準備に立ち上がったマダムと入れ替わりで
娘のJさんが挨拶に来られました。
はじめまして、の自己紹介を終えると
私の頬の近くに美しい顔を寄せて彼女は言ったのです。
「うちのママ、魅力的でしょう?母はそこにいるだけで100万ドルを生んでいるのよ」

そして、嬉しくてたまらないように語り続けます。
母は卓越したインテリアのセンスで調香にも通じている女性。
複数の事業を展開する父親(Mさんの夫)に絶妙なタイミングで話をさせ、彼の話をきき、時には沈黙を守ることで気持ちを引き立て、
事業を成功に導いている立役者にしてコミュニケーションの女王であること。
娘Jさんが悩んでいるときにはMさんは多くを語らず美しい音楽で心をときほぐしていったこと、、
「私は母のDNA を受け継いでいることを誇りに思うわ」

娘さんが席を離れるとマダムが薫り高い紅茶をティーカップに注ぎながら微笑み
「うちの娘、チャーミングでしょう?15才よ」
私は70-15=55と計算し、首をかしげました。

マダムが55才のときに産んだお子さん、、?

「彼女は亡くなった前妻の子供なの。ただし精神的なDNA は私がJにプレゼントしたかもしれない。
私は娘を誇りに思うわ」

マダムの自宅をおいとまするときに、
紫色のラナンキュラスの花束をお土産にいただきました。
「紫の花言葉は『幸福』」
幾重もの紫色の花びらだけでなく目には見えないコミュニケーションの花束を、プレゼントしていただいたひとときでした。